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◎放射線療法
人間の身体の細胞は、放射線の影響を受けやすい性質をもつものとそうでないものとがあり、このことを放射線の感受性といいます。放射線療法の外照射とは、放射線を少しずつ分割して照射し、照射を受けた部位の細胞の回復の速度の違いを利用した治療法です。腫瘍細胞は正常細胞と比較して細胞の回復が遅いので、腫瘍細胞が回復しきる前に放射線を照射し正常細胞の占める割合を増やすものです。したがって、決められたスケジュールで照射を受けなくてはならず、途中で休止・中断すると治療効果が低下してしまいます。また、腔内照射は、患部の腫瘍組織を目がけて照射する方法であり、一回照射量は多いですがその分、治療効果があります。
放射線療法を受ける前に、放射線腫瘍科医の診察を受け、ここで放射線腫瘍科の主治医が決定しました。当初外部照射は骨盤周囲へ一通り照射してから上腹部への照射を予定していましたが、専門医達が検討した結果、上腹部から骨盤周囲を一度に照射することになり、外照射の後半に腔内照射を開始することになりました。
具体的なスケジュールについて、外部照射は月曜日から金曜日の腔内照射以外の平日、1回照射時間1~2分、私の場合は28回合計照射量50グレイでした。照射準備としてCTで照射位置を計算し、みぞおちのところから黒いペンでマーキングし、マーキングのインクが落ちないように上から透明フィルムテープで保護しました。照射中は台の上で動けませんが、痛みがないので苦痛なく治療を受けられました。
腔内照射、これは決して楽な治療ではありません。外照射22回を終えた頃から週1回の腔内照射が始まりました。子宮腔内に器具を挿入して直接がんの患部へ放射線を照射するのですが、特に器具を入れる痛みが強く、終了後に物凄い倦怠感が出現します(個人差あり)。しかし、扁平上皮がんによる子宮頸がんには非常に効果があります。私の場合は、一回の照射時間は事前準備も含めて約1時間、4回に分けて合計照射24グレイ実施しました。照射室へ移動する前に、鎮痛効果のあるNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性消炎・鎮痛剤)のボルタレン座薬を投与しますが、提示された計画では処置の30分前投与ですが、鎮痛剤の効果出現時間が人によって異なるので、薬の持続時間を考慮しながら少し早目の1時間前に投与させてもらいました。座薬を入れても痛みはありますが、回を重ねる毎に器具が子宮内に入りやすくなりましたし、意識してリラックスするようにゆっくりと口をすぼめて息を吐くなどの工夫をしました。少しずつですが楽に治療を受けられるようになり、最後の1回は外来で腔内照射を受けました。
放射線治療の副作用は治療期間中に出現する急性有害現象、治療終了後半年から1年以上経過してから出現する晩期有害現象があります。退院後に出現した晩期有害現象については後に述べますが、急性期有害現象として、外照射を10回程経過してから陰部から肛門部、そして仙尾部の皮膚障害(掻痒感、びらん、ヒリヒリ感、色素沈着、まさしく火傷状態)が出現しました。びらん(ただれ)が発生した部位は、症状が進行すると排泄時に刺激となって、悲鳴を上げる程に重症化した時期もありました。対策として、医師から処方されたステロイド軟膏の他に、赤ちゃんの沐浴剤として市販されているスキナベープをお湯に溶いて局所浴し、皮膚に油膜(油性のバリア)をつくることで、症状が随分緩和されました(この対策は、入院病棟の看護管理者のアドバイスでしたが、大変効果がありました)。また、仙骨部については、外部照射と腔内照射の線源が集中する部位であることから症状が残りやすく、現在も皮膚乾燥や発赤・炎症、色素沈着、皮膚の硬さなどが残っており、ボディ用乳液を塗布しています。
また、女性の場合は照射部位によって卵巣機能不全が出現しますが、私の場合も生理がなくなりました。

◎化学療法(抗がん剤治療)
 化学療法には、治癒を目指して行う、手術前にがんを縮小させる、延命効果、再発予防を目的としたものがあります。私が受けた同時化学放射線療法は治癒を目指して実施されました。
生まれて初めての抗がん剤投与は、私にとって一大イベントでした。これまで看護師として何度も抗がん剤を取り扱ってきましたが、いざ自分が受けるとなると相当の覚悟が必要です。私の場合は、標準治療となっている同時化学放射線療法であり、抗がん剤を併用することで治療成績が上がるといわれている方法です。抗がん剤は、白金(プラチナ)製剤のシスプラチン(商品名:ランダ注)を週1回6クールの予定で開始しました。主な副作用としてあげられている嘔気については、抗がん剤投与前に制吐剤を点滴し、補液量を増やして抗がん剤の排泄を促進させ腎臓への負担を軽くする対策がとられました。幸いにも嘔気はなく安心しましたが、気づかないうちに食欲が落ちてしまい、病院食、特に主食(ごはん・パン)が進まず苦労しました。後に考えると胃のあたりから放射線照射をしているのでその影響が大きかったと思います。特に治療終盤は痙攣性の胃痛が出現し、上腹部を温罨法して過ごした時期もありました。病院食については米飯をおむすびにしてみる、麺類に変更する、ふりかけや梅干しの使用、ポッカレモンをタレに入れてさっぱり味でそうめんを食べるなど工夫を施しましたが長続きせず、段々と差し入れに頼る日が多くなってきました。この年の夏は、差し入れのスイカ、巨砲、梨、トマトの砂糖漬け、グレープフルーツ味のアイスBOX(小さく砕いた氷状のアイス)で乗り切ったといっても過言ではありません。因みに、入院中の57日間で体重が7㎏減りました。しかしながら、笑っちゃうことに数ヶ月で元に戻り、現在はうなぎのぼりで体重が増加しています。(気をつけなくてはと思いながら…。)
腎機能については血液検査で腎機能の指標であるクレアチニンというデータが上昇したため、本来6回のところを化学療法5回で終了することになりました。余談ですが、同じ治療を受けている同室者に比較して、吐き気という不快感が全くなかった背景には、船酔いしないという事が統計データであるようで、主治医のもとで学習している研修医からプチ情報がありました。考えてみれば、私は夏シーズン毎年島へ渡り、小型船に乗りイルカと泳いでいました。それが良かったのかもしれません。

◎輸血と氷食症
 「氷食症」とは、無性に氷を食べたくなる病気で、鉄欠乏性貧血が主な原因といわれています。出血が続いていたこともあって、入院前から常に貧血状態でした。そのせいか、季節を問わず製氷機の氷や凍らせたペットボトルの中の飲み物を溶かしながら氷をかじっていたような気がします。
 本来の貧血に加え、入院後も患部からの出血で貧血状態が続いたため、入院中に赤血球濃厚液(RCC)16単位を5回に分けて輸血しました。輸血中にアレルギー反応などの副作用が出現するケースもあるので、十分な確認と観察のもとで投与を受けましたが、幸いにもそのような症状はなく、超貧血状態の身体が赤血球を欲しているかのごとく馴染んで入ってくるような感覚を受けました。但し、輸血中の血管痛が強かったので、局所を温罨法して過ごしました。輸血もそうですが、点滴(抗がん剤も含む)中の血管痛対策について、局所の腫れや発赤などの炎症所見がない場合は火傷に留意しながら温めることで随分と楽になります。

◎患部の圧迫止血処置と子宮動脈塞栓術
入院に3回もの大出血アクシデントが発生しました。
一回目は入院10日目の夜にトイレでレバー上の出血約1kg、急遽トイレでナースコールし看護師に車いすで迎えに来てもらいました。処置室で緊急処置を実施、主治医が夜中に駆けつけてくださり、ヨードホルムガーゼを膣内に1m充填し圧迫止血処置をしていただきましたが、その間ショック状態で過換気症状発生、呼吸の苦しさから一瞬死を意識しました。私の子宮膣部はがん組織で脆く組織が崩れやすくなっている状態です。がんは新たに血管を再生しながら増殖しますので、粘膜など血管が豊富に露出している部位は出血しやすくなっています。その時点から、私のヨードホルムガーゼ生活が始まりました。ヨードホルムガーゼを使用して膣内を圧迫することで止血を促すのですが、局所の炎症が強かったことやヨードホルムガーゼの量が多かったこともあって毎日の交換処置は痛みで悲鳴をあげていました。ヨードホルムガーゼ交換は9月末までの間33日間、1日1回約60㎝ずつの交換を続けました。出血リスクがあるので行動範囲も制限が出され、主治医と話し合った結果、シャワー許可は手に入れましたが、歩行は入院病棟内だけとなり基本的にベッド上安静、放射線治療室などの病棟以外へは介助者に車椅子を押してもらい移動することになりました。安静が解除されて放射線治療室へ歩行で移動出来たのは、退院する9日前でした。
2回目の大出血は、入院16日目のヨードホルムガーゼ交換の時でした。主治医が休暇中で当番医による処置でしたが、何となくいつもの手技と異なる(ガーゼ圧迫が弱い)感じを受けた直後の出来事でした。処置としてヨードホルムガーゼ1.7mで圧迫止血することになり、その後、主治医のもとで研修していた医師から、アンギオ(カテーテルを主に鼠径部の動脈から挿入し、エックス線透視下で造影剤を使用して撮影しながら検査や処置を行う)による塞栓術(子宮につながっている血管にカテーテルを挿入して塞栓物質で詰まらせて止血する)を何度も勧められましたが、自分自身が納得できなかったので拒否しました。
3回目の大出血は、入院27日目でした。朝の回診で主治医から「もうそろそろガーゼをはずして様子をみましょう。」と提案を受け、あと5分程で交換の時間になるという矢先に、ベッド上でジワーッと嫌な温かさを局所に感じました。直ぐにナースコールし、処置室へ車椅子移動、主治医の処置を受けた時点では既に止血しており出血部位は確認されませんでしたが、処置台から移動しようとしたときに再び出血しました。出血部位は膣壁からという事が判明し、勢いのある動脈性出血であることから、緊急のエックス線透視下による子宮動脈塞栓術を受けることになりました。エックス線透視下でカテーテルを挿入して実施する処置は、消化器内科や循環器内科などでも実施する頻度の高い処置であり、私も看護師として何度となく処置中の介助を経験したことがあります。経験豊富な放射線診断科の専門医が実施してくれるという説明が主治医からあり、信頼する病棟スタッフと病棟管理者が処置の介助についてくださいましたが、これまで自分なりに頑張って安静を守ってきたのに突然の大量出血、緊急処置決定、処置の流れが脳裏を駆け巡り、イメージ出来ることが逆に不安を増し感情が抑えられませんでした。約3時間の処置によって、出血の原因と思われる細い血管を上手く止血していただきました。ここで、患者として体験して思ったことがあります。鼠径部からカテーテルを挿入して尾骨付近や下肢へ造影剤や塞栓物質を注入するのですが、その瞬間はお尻もしくは足が一瞬「カアーッ」と熱くなりとても不快になります。でも、これは異常ではなく、事前に説明を受けたことで覚悟ができ、一瞬息を止めて我慢し何とか持ちこたえました。翌日の診察ではしっかりと動脈性出血が止血されており、プロの技術に感謝しました。しかしながら、露出血管からの出血リスクがあるという理由から、ヨードホルムガーゼは外すことが出来ませんでした。
大出血アクシデントの都度昼夜問わず、外出中でも連絡を受けて心配して駆けつけてくれたのが、チーム○の上司達です。ホント足を向けて寝られません。しっかりと身体を拭いて貰い、局所洗浄までもやっていただきました。同じ看護師仲間から施される援助は、信頼しているが故に心地良いものでした。看護は『手』だなあと改めて実感しました。(もし看護料を支払わねばならないとしたら、管理者ですし、時給がかなり高くつくのでしょうか・・・?!)

To be continued…