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◎疼痛コントロール
側腹部痛、ガーゼ交換による局所痛のために、鎮痛剤としてNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性消炎・鎮痛剤)のロキソニン錠を内服していましたが、胃痛が出現したため、医療用麻薬の一種であるオピオイド系鎮痛薬のオキシコンチン錠に切り替えをしました。この薬剤は決められた時間に確実に内服し薬剤の濃度を一定化させて、薬効を評価していかなくてはなりません。また、副作用として嘔気を感じる人もいるので、その対策として中枢神経系に作用して効果を発する(強力な精神安定剤)ノバミン錠という薬が処方されます。私の場合は、嘔気がなかったことと、眠気が強かったことから途中でノバミンを中止していただきました。治療経過とともにこれらの痛みが軽減してきたので、最終的にオキシコンチン錠からロキソニン錠の頓用へ移行し、その後鎮痛剤を中止しました。

◎尿道留置カテーテルの使用
局所の安静(大出血アクシデント発生後の数日間×3回)、放射線治療における腔内照射中(照射中の1時間×4回)の管理のため、尿道留置カテーテルを使用しました。
カテーテルを尿道から挿入する処置は、緊張すればするほど不快感が増すもので、自身が患者さんへ挿入する際の声掛け「口で呼吸する」を頭の中で自分に言い聞かせて、クリアしました。また、カテーテルを抜く際も、一瞬ですが「ちょっと気持ち悪い感じがする」「ヌルッという感覚で抜ける。」と自分に言い聞かせたことで、一瞬の苦痛から逃れられました。しかしながら予想外に不快感が強かったのは、カテーテルを尿道に挿入した状態で座る(ベッド上座位・車椅子乗車)行為でした。局所への刺激が強く、片側の尻を浮かせないといられない状況でした。私たち看護師は尿道留置カテーテルを挿入した状態の患者さんを車椅子で移動する機会がよくありますが、私はこれまでそのような訴えを患者さんから聴いたことはなく、自分だけの感覚なのかもしれませんが、今後そのような場面に立ち会った時は配慮していかなければと思いました。

◎体力低下
長い入院生活、そしてがん治療を受けているのですから、体力が落ちるのは当たり前の事です。私の場合は貧血も重なり体力低下を実感しました。
そのことを実感させられ落ち込んだ出来事があります。シャワー浴中、そしてシャワー浴後の脳貧血です。浴室で意識が薄れなかったのが幸いで、ベッドに戻って食事もとれずに気づいたら2時間経過していたという事もありました。自ら医師へ状態を報告したこともありましたが、その時に決まってお願いしていたことがあります。「十分に気をつけるので、私からシャワーをとらないでください。」という事でした。自分で自分のことが出来る事は基本的欲求として大切なことです。私にとっては、シャワー浴を行うことは何もない一日の中のイベントであり、さっぱり感を味わうことが気分転換の一つでした。しかし、医療者側にしてみたら、浴室で倒れられたら大変なことですし、リスクを回避したいと考えるのは当たり前かもしれません。

◎下肢筋力低下
入院期間中、病院の敷地から外へ出られたのは、退院する1週間前の試験外泊だけでした。その間、殆どの時間を病室のベッド上で過ごし、階層の異なる放射線治療室やレントゲン室などの移動は全て他者の手を借りて車椅子で移動していました。
安静期間が長かったこともあり、退院前の試験外泊で自宅の2階までの階段を昇るのが信じられないぐらいに大変なことを実感しました。膝がカクカクと笑って力が入りませんでした。長期臥床患者の筋力低下を知りながらも、自身がその対策を講じなかったことを少し後悔しましたが、これについては出血リスクから下腹部に力を入れられず下肢の運動を積極的に行えなかった、放射線の影響で筋肉が線維化し筋力不足が生じたなどが原因になっているので、時間をかけて回復するしかないと理解しています。

◎腫瘍熱
入院当初から37度後半の熱が持続していました。私はそれ程気にしていなかったのですが、発熱による体力消耗を心配した病棟スタッフから腫瘍熱に効果があるNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性消炎・鎮痛剤)のナイキサン錠を勧められ、主治医へ相談し約15日間内服しました。一般的に感染症では、発熱の程度にもよりますが、薬で解熱させることで血液中のリンパ球(外からのウイルスや細菌を殺す作用)が減少するので望ましくないといわれています。しかし、腫瘍熱の場合は体力消耗を考慮して、早めの対応を医師へ相談していく必要があると思います。

◎精神状態の変化
あれよという間に入院、治療開始・・・。落ち込みや後悔をしている暇はありませんでした。これは年齢的なことも手助けになったかもしれません。また、入院中は体調の悪さと倦怠感・眠気が常にあり、食事とシャワー浴、処置や治療、短時間の同室者との談笑以外は臥床してボーっと過ごし、よく眠っていました。
ところが、治療も後半に入り体調が回復し退院の話が主治医から出された途端、一転してそれまで張りつめていた糸がぷつんと切れ、突然気持ちが落ち着かなくなりました。家に帰りたくて、集団生活から脱して一人になりたくてたまりませんでした。自分のベッド周囲のカーテンレールの幅の四角くて狭い天井だけを見つめる生活がたまらなく嫌になってきました。一人で泣いてみたくなりました。そこで、決行したのが試験外泊です。主治医には正式な許可を得ていましたが、サポーター達へ知らせず、自宅へ一人で50日ぶりに帰りました。勿論、たった1泊二日の冒険ですが、安静度をようやく拡大したばかりで、体力もなく何をするにもしんどくて、結果的に落ち込んで病院へ戻りましたが、一晩一人で過ごし思いっきり涙を流す事ができました。(数日後心配するサポーター達にばれてこっぴどく叱られましたが、外泊を決行して大正解でした。)
入院中主に私を支えてくれたのはサポーター達、遠方から面会に来る家族でしたが、その他に決して忘れてはならない方がいます。入院した病院に勤務しているがん専門領域の資格を保有している看護師Bさんです。緊張しやすい私に呼吸法によるリラックスできる対策を伝授してくださり、抗がん剤点滴中や痛みで苦痛な時にその呼吸法を実践しました。また、不思議なことに、テレビカメラで監視しているのかの如く、いつも辛い時タイムリーに訪問し静かに気持ちを受け止めてくださいました。午前中のガーゼ交換後の苦痛で顔をゆがめていた時、発熱でぐったりしていた時、試験外泊から戻り体力低下を実感して落ち込んでいた時、最初は明るく会話できていたのに、突然嗚咽を漏らした時もありました。そのような時、「私の前で、気を遣わなくていいから。」と声をかけていただいたことで、辛い気持ちを吐き出すことが出来ました。

◎がん友達との関わり
4人部屋で同室者は同じ時期に入院したⅠb期の30代の女性1名、Ⅲb期の40代前半の女性2名、そしてⅣb期の私でした。Ⅰb期の彼女も手術後に抗がん剤治療が追加になったので、結局4名で1カ月以上寝食を共にし、患者同士の連帯感が生まれました。残念ながらⅠb期の30代のがん友を9か月後に失い、今年3回忌を迎えました。可愛らしい素敵な女性でした。私は、未熟者でまだこの世の修業が終わらないので迎えが来ない、はやく旅立ってしまったがん友はこの世の修業を終えることが出来たのだと思います。がん友を失った悲しみはありますが、彼女の分も生きなくてはと思いますし、何よりも別の世界で見守ってくれていると信じています。
子宮頸がんⅣb期は、治療成績の良いがん専門病院であっても5年生存率25%前後(病院によっては15~20%)といわれています。もしかしたら私はそれに満たないかもしれません。できれば自分がその中に入っていたいと思いますが、どうなるかは全くわかりません。理想(の予後)としては、今後がん細胞が再燃して効く抗がん剤がなくなっても、治療の選択肢がなくなっても、最後まで自分らしく凛として過ごしたいと思います。

◎インフォームド・コンセントと治療の意思決定
医療現場では、患者と医療者のパートナーシップが重要になります。
私達医療者は、患者さんに対して正しく情報を伝える責任がありますし、患者さんが十分に理解し納得した上で資料の意思決定をすることが重要です(インフォームド・コンセント=説明と同意)。「患者が納得してがん治療に臨む。」そのためには、患者自身も疾患、がんの進行状態(病期)、治療法について正しく理解する必要があります。患者さんの多くは医学的な専門知識を持っていないケースが多く、それは仕方のないことです。しかし、「解らないから」と任せきりにするのではなく、自分から興味を持って、若しくは一歩勇気を出して聞く術(すべ)を持ち合わせて欲しいと思います。反対に、医療者は患者が病気を自身のこととして受け止められるように、理解状況を会話で聞き返しながら確認し、更に患者側から疑問や不安を訴えられるような働きかけをする必要があります。医療者が患者へ説明する際には、疾患の病態生理と病期、治療方法(複数の選択肢があれば全てを説明)と治療成績、有害事象のリスクを提示しなければなりません。そして、最終的な治療の決定は患者が決めなければなりません。自分の病気のことですから、お任せ医療や背を向けてはいられません。治療の決定権は患者にあるのです。そして、私自身もそうでしたが、患者自身が最終的に決めたことは尊重してもらいたいし、周囲の人はそれに寄り添って一緒に闘ってほしいと思います。

◎看護師の役割の重要性
がんを発症してから、患者として、サポーターもそうですが、多くの看護師に様々な場面で助けていただきました。そして、改めて、患者の一番近い距離で援助する看護師という職業の役割の重要性を改めて認識しました。
患者の私として日々思うことは、援助技術は安楽に安心して受けたいですし、そこには豊富な知識と経験も大きく影響します。しかしながら、看護師の資質は年齢や経験だけではありません。いかに相手(患者)に興味を持って接しているか、援助する相手が自分の大切な人や家族だったらどう接するか、そこが一番大切なことだと思います。入院中に体調が悪かった時、事前に病状経過を把握してベッドサイドまで足を運んでくれる看護師と、そうでないのとでは、こちら側が説明に費やす労力が全く異なりました。経過を知らない看護師へは、こちらが1から10まで説明しなくては、本題の苦痛の訴えまでなかなか到達しません。何も言わなくとも察するプロとしての配慮が欲しいと思います。
でも、なんだかんだ言っても看護師は魅力的な職業だと思います。

To be continued…