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<初回治療後の退院~外来通院>
長い入院生活を経て、遠方から駆けつけた母とサポーターの迎えで57日目に退院しました。
退院の数日前に主治医から治療の評価について説明がありました。ラッキーなことに血液検査、細胞・組織検査・腫瘍マーカーは正常値に戻り、CT検査でもリンパ節転移の部分は、治療瘢痕という形で画像に残り、がんで大きくなっていた子宮も縮小してきているのが分かりました。放射線治療の効果は治療を終えてから約3ヶ月間残っているので、今後の経過を診ていきましょうという期待が持てる説明でした。また、説明の合間に主治医からは、「この患者さんは我が儘で・・・。」と3度も発言がありました。思い起こしてみると、私は単に治療に対する自分の意思表示を何度かする機会がありましたので、それが我が儘と捉えられたのか、それとも私の性格がそのように映ったのか・・・?しかし、そうは言いながらも、主治医は私の希望を受け入れて医療を施してくださったので感謝しています。
退院後から、1~4か月間隔で外来通院(婦人科・放射線腫瘍科)が始まりました。仕事は1か月半自宅療養をした後、2009年11月中旬から職場復帰をしました。
職場復帰と共に立場上カミングアウトしなければならない相手がいました。看護管理者仲間達への説明です。実際に会議の場で「がんであること」「扁平上皮癌であったこと」「受けた治療内容」を伝えましたが、具体的な部位までは話しませんでした。それだけ婦人科系の病気はデリケートな問題ですし、仕事上の付き合いだけの相手に自身のプライベートな部分をさらけ出すのに抵抗もありました。入院前に説明を控えていた悪友には事前に伝えなかったことで「水臭い」と嫌な思いをさせてしまいましたが、社会復帰後に誠意をもって事情を説明し受け入れてもらいました。

<放射線療法の晩期有害現象>
◎放射線腸炎
2010年4月末より(放射線療法終了後6ヶ月経過)排便時に血液が付着するようになり、5月の定期外来受診時に主治医へ伝え、6月中旬に消化器内科で大腸内視鏡検査を受けました。検査の結果、直腸粘膜の毛細血管拡張を認め、放射線腸炎と診断されました。放射線腸炎は晩期有害現象の一つであり、粘膜に毛細血管が増殖しそこを通過する便の刺激で出血が発生します。便が硬くても柔らかすぎて頻回でも患部の刺激になります。繊維質が多いと便のカサが増したりゆるくなり過ぎて回数が増えて刺激になりますし、逆に繊維質が少なすぎると便の回数が減り硬くなって刺激になります。摂取する繊維質の量を上手くコントロールしなくてはなりません。勿論、排便コントロールにはストレスや疲労も影響しますので、体調管理がとても重要になります。現在は、出血がない時もあれば、排ガスだけで血液塊(コアグラ)が排泄される時もあります。持続的ではなく貧血もないため様子を見ています。

◎放射線膀胱粘膜病変
2011年7月初旬(放射線療法終了後1年9ヶ月経過)の夜、突然の血尿出現に焦りました(2回)。主治医へ報告し泌尿器科で膀胱鏡検査を受けました。検査時には既に出血は止まっており、粘膜病変としては軽い状態であったようです。膀胱粘膜が広がることで毛細血管が拡張し出血しやすくなるため、日常の留意事項として尿を膀胱にためすぎないように説明を受けました。その後、血尿はありませんが、確実に放射線治療の影響で、膀胱容量が小さくなっているような気がします。

◎下肢浮腫
放射線療法でも少なからずリンパ浮腫は出現します。程度としては、手術でリンパ節郭清したとき程ではありませんが、下肢の浮腫が気になり疲れやすくなります。

 

<がん再発>
◎再発宣告
定期受診時の腫瘍マーカーSCCの数値が2011年1月1.9ng/ml(正常1.5以下)、4月2.2ng/mlと上昇し始め、2011年8月中旬のSCCが3.3ng/mlとなったので、CTとMRI検査を実施し、子宮周囲に7~8㎝大の腫瘍を認め、骨盤内再発と診断されました。腔内照射を実施した子宮頚部と外照射を実施した部位の組織は問題なく、子宮筋腫の裏側の隠れた部分に放射線が十分に届かずがん細胞が再燃したのだろうという説明でした。がん細胞はミクロの世界です。肉眼的に見えないところから、増殖していく恐ろしさがあります。
再発治療については、腫瘍が膀胱と直腸に近い部位であるため手術の選択肢はありませんでした。自分の中で「効果的な治療法がないのなら、無理に抗がん剤を使って副作用に苦しむよりは、このまま何もせず普通に過ごしたい。」という思いが強くありましたが、幸いにも主治医から2パターンの化学療法(どちらも標準治療です)の提示がありました。治療日程、薬効、治療成績、副作用について説明を受けた後、私はその場でTC療法を選択しました。TC療法の選択をする前に、主治医へ「このまま何もしなかったらどうなりますか?治療をしないという選択もありますか?」と尋ねたところ、「いいよ、どちらでも。受けたくないのならば。」という返答がありました。これを聞いて、この主治医は私の意思決定を尊重してくれそうだという妙な安心感が湧いてきました。外来受診後、自宅で日本癌治療学会ホームページから「がん診療ガイドライン」を検索し、受けた説明内容を自分の中で消化しました。
仕事を継続しながら治療を受けることにしたので、自分の状況を伝える相手は最小限にし、家族、チーム○のサポーター達、悪友、病院長、一部の職員だけにとどめました。今回のことを予測していたわけではありませんが、5か月前より自らの希望で管理職を降格しておりましたので、「今は自分の身体のことを第一に考えればいい。」と思えるようになり、治療に専念できる環境が整い、そのことに関する心理的負担が軽減出来たように思います。

◎TC療法
 TC療法とは、タキサン系製剤のパクリタキセル(商品名:タキソール)と白金(プラチナ)製剤のカルボプラチン(商品名:パラプラチン)を3週間間隔で投与する方法です。1回の治療で2泊3日の入院期間が必要になります。実施回数については、「Ⅳb期という点から考えると、ずっと続けなくてはいけないかも。」と主治医のコメントもありましたが、治療計画では12クール程度と書いてあり、最終的に腫瘍マーカーとCTで途中評価しながら6クール実施しました。(治療効果があり、がんが消えました。腫瘍マーカーのSCCも0.6 ng/mlと正常範囲内になりました。)
TC療法を選択した一番の理由は、治療効果に対する期待も勿論ですが、入院期間が短期であることが一番の決め手でした。週末の木曜日に入院して土曜日に退院、日曜日を自宅で過ごして、月曜日に出勤できます。しかしながら、抗がん剤治療を受けながら仕事をする点については、色々な
意見があると思います。第一に、病院によって治療環境が異なるため、同じTC療法でも入院期間や曜日が異なります。次に、抗がん剤の副作用に個人差がありますし、それぞれの職場環境にも違いがあります。したがって、一概に私のようなスケジュールは、推奨出来るものではありません。私の場合は、医療者として自己管理に対する自信があったこと、職場環境に恵まれていたこと、何よりも普段通りの生活を継続したいという思いが根底にありました。
TC療法で使用する抗がん剤の主な副作用は、白血球減少(特に好中球減少、感染のリスク大)、末梢神経障害、肝機能障害、腎機能障害、過敏性反応(投与直後に発生しやすく、対策としてアレルギー予防の薬剤を前投与)、心負荷(投与直後に発生しやすく、異常を早期発見するために心電図モニターを装着)、嘔気・食欲不振(制吐剤を投与)、全身倦怠感、脱毛、爪の変化、顔面紅潮(パクリタキセルの添加物として無水アルコールを含んでいる為、通常の使用量では約500mlのビールに相当するアルコール量となる。お酒に弱い人は酔っ払った感じになる場合も)、血管痛・血管炎などです。ここで述べた副作用ですが、医療者側が捉えている副作用と、患者側が捉えている副作用とでは若干視点が異なる場合があります。患者側は脱毛や嘔気などの外見や自覚症状を気にするケースが多く、逆に医療者側は外見よりも、生命に直結する感染リスクや心負荷、腎機能・肝機能などのデータを重視しています。しかし、患者自身が不快と感じる症状を我慢するのではなく、苦痛を最小限に出来るよう対策を講じる、やむを得ず出現した副作用についてもそれを受け入れ調和のとれた生活ができるようにセルフケアをしていく必要があります。セルフケアについては、一人で抱え込むのではなく、自身の思いを声に出して周囲へ伝え、専門家のアドバイスや体験者の経験談を参考にすることでより的確な方法が見出せると思います。
さあこれから治療・・・という時、私の脳裏に浮かんだのは副作用の脱毛対策でした。

<TC療法の副作用と対策>
◎脱毛と頭皮のケアと医療用ウィック
社会生活を周囲に気付かれずに継続するには、外見の変化が目立たないようにしなくてはなりません。TC療法が決定した直後に医療用ウィック(かつら)の情報コーナーへ足を運び、掲示してある何十冊ものパンフレットに目を通しました。しかしながら、見れば見る程どれが良いのか、わからなくなってしまいました。途方に暮れながら看護師Bさん(がん専門領域の資格保有者)へ相談に行きました。デスクワークが多いことや電車通勤で座った場合に上から見下ろされる可能性を考慮して、「スヴェンソン」というメーカーの医療用ウィック(頭頂部が肌色系の地肌付き)を選びました。早速サロンへ出かけ、担当者からのカウンセリングを受けて色や髪型を選び、受取日を初回治療の退院日にしていただきました。少し高額ですが治療割引(回復支援割引)もありますし、試用期間と毎月の美容院代として考えてみればそれ程高額ではないと思いました。それに、定期的なメンテナンスやウィックに関するカウンセリングに対応して貰えれば安心です。
初回治療の帰り道にサロンへ寄り、地毛をベリーショートにカットしてウィックを装着し、ここから私の長いかつら生活が始まりました。ここで、留意しなくてはいけないのはならないのは地毛の長さです。どうせ抜けるのだからとバリカンなどで短くし過ぎると、脱毛した時に抜けた毛髪が皮膚にチクチクしますし、コロコロで掃除する際にも粘着テープに捉えにくく掃除が大変です。ほどほどの短さがベストだと思います。
 毛髪の脱毛については、初回治療後10日目にシャンプーで頭皮の毛穴が開いた際の脱毛が始まり、15~16日目に頭皮のピリピリとした痛みを伴って大量の脱毛があり、やがて落ち武者のような髪型になり、その後3クール目のTC療法を開始する前後には殆どの髪の毛が消失していました。
 脱毛開始と同時に発生したのが頭皮の痒みと湿疹でした。毛穴が開いているところに、発汗、頭皮の清潔を保っていたつもりでしたが、回復するまで時間と忍耐(掻きむしらない!)が必要でした。主治医へ相談しステロイド軟膏を処方してもらい塗布しました。スキンヘッドはシャンプー後の手入れがとても楽でした。寝癖を気にする必要がないし、結構頭の形もよく似合っているような気がしました。ただ、頭皮を保護するクッション的な役割をしていた毛髪が消失したので、怪我をしないように気をつけましたし、保護と保温目的をかねてコットンキャップを活用しました。可愛らしいコットンキャップは気分転換になります。おしゃれ気分で楽しみました。
その他頭皮について気になったことがあります。皮脂と臭いです。いかに毛髪が頭皮の油を吸収しているのか、気にして頭皮に触れるたびにベトベトした感じがあり、湿疹が治ってからはメントール含有のボディシートで清拭をして対処しました。頭部の発毛が始まったのは思ったよりもかなり早く、6クール目を終了した43日目でした。(自分では3ヶ月以降かなと予測していたので、生え始めは驚きとワクワク感が入り混じっていました。)
眉毛については、初回治療後、15日目より薄くなり、6クール目を終了した頃にはかなり薄く、ペン先がスポンジ製のパウダータイプの眉ペン(ジョイン(株)、プロマユ、03グレーブラウン)で書いていました。まつ毛については、脱毛せずに持ちこたえていたのですが、ちょうど6クール目の終了後6日目あたりから抜け始め、6クール終了後28日目には完全脱毛し、顔全体が肌色の埴輪(ハニワ)みたいな感じになってしまいました。まつ毛対策としては、ジェルタイプのペン型アイライナー(資生堂インテグレート・キラーウインクジェルライナー・ブラウン)が使いやすかったです。しかしながら、大騒ぎした割にまつ毛のなかった期間は短く、完全脱毛してから17日目に発毛開始しました。
他の体毛については、気づかないうちに抜けて、生えてきたような気がします。

◎白血球(好中球)減少
 殆ど全ての抗がん剤に副作用として白血球減少があります。白血球は、顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球)、単球、リンパ球で構成され、特に好中球は白血球の中でも多くを占めており、生体防御の役割を担っています(外部から侵入したウイルスや細菌を退治する)。
 私の場合は、TC療法後11目前後に白血球が減少し、その中の好中球についてもかなり少なくなりました。(白血球の中の構成が変化し、好中球の割合が少なくなり、白血球数減少が更に好中球減少を招くのです。)外からウイルスや細菌が侵入しても戦うことが出来ないだろうという数値でした。ですから、外から侵入しないようにしなければなりません。白血球(好中球)減少が発熱などの症状を招いたり、数値が更に下降するような場合は薬で増やしたり治療を休止するなどの対策をとることもありますが、何とか治療を継続することが出来ました。
 感染対策で一番重要なのは、手洗い、次にサージカルマスク(使い捨て・インターネットで格安購入)です。常に何か作業をするたびに、外出から戻った時、パソコンを触った時、トイレ、食事、引出しや冷蔵庫に触れた時など、殺菌用石鹸でしっかり手洗いをしていました。マスクについても、通勤時・職場到着後、帰宅後、食事で外した時に毎回新しいものと交換しました。(医療現場では当たり前のことです。)空気清浄器と加湿器も活用しました。室内の湿度によって、ウイルスや細菌が増殖しやすくなります。特に冬場のインフルエンザシーズンでしたので、細心の注意を払いました。
 感染対策には、家族や周囲の仲間の協力が必要です。自分自身がいくら注意を払っていても、他の人がウイルスや細菌の媒介者(運び屋)になることもあります。それぞれが感染しないようにお互い自己管理をしなくてはなりません。

◎全身倦怠感(だるさ・疲労・脱力)        
 がんの初発治療で体力低下しており、もう無理が出来ないと自覚していました。
 私の場合の全身倦怠感は、抗がん剤点滴後に発生しました。本来の抗がん剤の副作用、そして抗がん剤排泄のために点滴で水分量を増やしますが、その後に利尿がついて、頻回のトイレ通い・睡眠不足・電解質バランスの崩れ・脱水などが影響して発生したようです。木曜日に入院して点滴開始、金曜日に抗がん剤を投与、土曜日の朝に点滴終了して退院します。退院日と翌日日曜日の午前中までは比較的元気です。(元気なことには、もう一つ理由があります。抗がん剤の副作用を予防するためにステロイド剤を投与するのですが、これが気分を高揚し、元気が出るのです。)身体が重いなあと感じ始めるのが退院翌日(日曜日)の午後からで、その後月曜日と火曜日がきつく、結局5日間ほど強い倦怠感が継続します。少し動いただけでも息があがり冷汗が出たりしますので、その間は横になって休むのが望ましく、仕事や家事も出来るだけ行動を制限し休息をとるように努めまました。(周囲の協力がとても助けになりました。)

◎末梢神経障害
抗がん剤の副作用は、1回目の治療は軽くても、その後薬剤が体内に蓄積してきますので、治療の回を重ねるごとに副作用が増してくるようです。副作用にも個人差があり、私の場合はむしろ軽いほうかもしれませんが、足底部(つちふまずの辺り)から足指先端までの痺れが出現しました。初回のTC療法後6日目より指先のわずかな痺れが出現し、4回目のTC療法の時期から症状が強くなりました。内服治療はしていませんが、現在も同様に痺れが持続しています。対策として保温なども試しましたが、思ったほど効果がなかったような気がします。
痺れを客観的に数値で表現するのはなかなか難しく、現在自分が困っている痺れ、指が勝手に重なるような感覚、チクチクと針で突かれるような感覚を上手く伝えることは出来ませんが、苦痛&不快きわまりないです。実際に生活上の不便さもあります。歩行時に足を地面についている感覚がない、つまずきやすい、靴ずれの痛みを感じない(ひどい水泡状態になっていることも)などがあり、歩くのが億劫になることもあります。積極的に歩行をしないことで、下肢筋力低下や体力低下を増長させてしまいかねません。ホント、いいことありません!!でも、足に来たのが幸いで、もし手の痺れだったら、家事やパソコン作業に影響するだろうし、「がんと闘った証だから仕方がない。」と思い込むようにしています。

<2度のがん治療を経験して>
がんの初発治療と再発治療の経験をまとめてみましたが、がん治療という貴重な経験をしたことで、今まで気づかなかったことが気づけましたし、見えなかったものが見えました。そして、何よりも自分の身体に興味を持って大切に扱うようになりました。がん細胞は健康な人にもあるもので、それが表に現れるか、悪さをするかどうかがの問題です。
がん細胞の発生機序を知り、それに対応する治療法を科学的根拠から取り入れ、実践することが大切です。治療計画はプロである医師に任せますが、治療を受けるのは患者自身なので正しい情報のもとに納得して受けなくてはなりません。私はサプリメントやインターネット情報に頼ることはしません。特にインターネット情報については、上位に掲載されているものは単にアクセス件数が多いだけで、正しい情報か否は信用できないものも沢山あります。
今回がん体験をまとめるにあたり、自身のこれまでの記録を掘り出してみました。入院中から、自己管理のために、医師の説明内容、治療内容、全身状態(副作用や体調変化)、排泄、飲水量(入院中)、尿量(入院中)、バイタルサイン(体温・脈拍・血圧など)、検査データ、その他気づいたことを時系列で記録に残していました。まるで医療記録です。でも、記録に残しておいたことで、体調の変化に気づくことができ、次の治療を受ける時の参考になりました。特にTC療法では、副作用の出現時期が予測できるので、心と身体の準備に役立ちました。