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退院してから数日はゆっくりして、放射線治療に大学病院に通うことになりました。事前にK病院から手続きがしてあり、所定の書類を持っていったように思います。大学病院は家から車で1時間ほどでしたが、入院中のハイな気分から一転してぐったりとしてきました。放射線治療は、胸に油性インクで印を書き、乳房と脇あたりに照射していたと思います。そんなに時間のかかるものではありませんでしたが、何人もの技師に見られるのはあまり気持ちいいものではありませんでした。インクが取れないようにゆるめの下着をつけること、お風呂ではこすらないように言われました。手術後すぐは専用のブラトップのようなものをつけていましたが、あまり快適ではなかったのでこれまでのブラジャーに戻していました。すぐにブラジャーにインクが付き、これはまずいと思って、安いノンワイヤーのブラジャーを2枚買いました。ちょうど初めてブラジャーをするときのようなものです。デザインもかわいいし、綿だから刺激も弱くて正解でした。平日は毎日通いましたが、放射線のせいなのかうつのせいなのか、本当にぐったりしてきました。2人ほど一緒に入院していた人と会いましたが、彼女は仕事に戻っていて、午前半休で通っているのだと言っていて、すごいなあと思った覚えがあります。放射線を当てるところはだんだん皮膚が痛くなってきます。終りに近くなると軽い火傷のようでした。ぽろぽろと皮もむけてきます。ちょうど1カ月でリュープリンを注射しにK病院に行ったら、ジェルのような軟膏を処方されました。それを塗ると痛みもやわらぎ、カサカサもましになりました。6週通って終わった時には、本当にほっとしました。放射線を当てたところはくっきりと日焼けのように色が変わっていました。軟膏を塗る時にまじまじと手術をした右の乳房を見るのですが、たしかに小さくはなっていますが丸い形をしていました。がんをとりのぞいたところは段ボールを入れたように硬く、そこだけ少し平たくなっています。まあ、左右の違いはあるけどいいかな…とその時は思っていました。健常な左側の乳房も張りがありましたし、そんなに気になりませんでした。

放射線治療が終わるころから、だんだん体重が増えてきました。ぐったりして動けなかったのもありますし、ホルモン治療の効果がでてきたのだと思います。診察の度に体重を量り、できるだけ増やさないように注意されていましたが、なかなか止められませんでした。数カ月すると、急にコレステロール値が跳ね上がってびっくりしましたが、仕方ないんだよと言われていました。生理は手術の1年ほど前からうつ病の関係で止まっていたのであまり気にしていませんでしたが、生理がないとコレステロールが上がるのです。うつ病のほうで言えば、手術までドクマチールという薬を飲んでいましたが、これは副作用で乳汁が出ます。この薬が原因ではないと乳がんの先生からも精神科の先生からも言われましたが、自分ではいやだったのでやめてもらいました。それでも1種類の抗うつ剤と睡眠導入剤を飲んでいました。朝晩のUFTは絶対に欠かしてはならない、と3食はちゃんと食べ、できるだけ規則正しい生活を心がけましたが、朝食をとった後はだるくて仕方がなく、また横になって眠ってしまうことがほとんどでした。UFTは4年間服用しましたが、どんなに食欲がなくてもきちんと飲み、一度も余らせることはありませんでした。少しずつ掃除などの家事をしたり、短期間でしたが英会話教室に通ったりするようになりました。その年の冬、5年来の友人と交際することになりました。遠距離恋愛でしたが、ぐんと生活に張りができました。今考えると、がんの手術をしたばかりの私と付き合ってくれるなんて、本当にすごいことだと思います。ダイエットにも身が入ります。少し事務のアルバイトをしたりできるようにもなりました。次の年の秋には、結婚式を挙げることができました。手術後に6キロ増えた体重も4キロ落とし、ウェディングドレスもちゃんと入りました。結婚式まではマリッジ・ブルーというのでしょうか、ひどく落ち込んだり、食欲がなくなったり(結果的にダイエットになりましたが)不安定ではありましたが、それでも幸せに向かっていくのだと思うとがんばることができました。K病院の先生に結婚することを報告すると、「よかった!本当によかった。おめでとう!」と心から喜んでくださいました。看護婦さんも我がことのように喜んでくださり、本当に嬉しかった。先生は、子どもを産むことになるのかどうかをご主人とよく相談しなさいと言われました。もし欲しければリュープリンを3年ぐらいに短縮するとのこと。ただ、あなたは5年間しっかりやったほうがいいと思うけど、と付け加えられました。そのことは、私も気がかりでした。ただでさえうつ病で日常生活がやっとだし、がんにもなってこの先再発する可能性もあるのに、子どもなんて持つことができるだろうか…。でも、彼が欲しかったらそれは叶えてあげたほうがいいだろうし…。夫となる人との月1回のデートの時に思い切って「子どもはどうしたい?」と聞いてみました。彼は、「できれば、自分は欲しくない」という答えで、少々拍子抜けすると同時に、心の底からほっとしました。私たちは、子どもを持たないという選択をしました。

To be continued…